映画『オデュッセイア』を観て、物語の背景にあるギリシア神話や、原典についても知りたくなりました。
そこで読んだのが、次の3作品です。
- 吉田敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』
- 松村一男『オデュッセイア』入門
- ホメロス『オデュッセイア(上・下)』呉茂一訳
実際に読み比べてみると、3作品の役割はかなり違いました。
ギリシア神話全体を広く知る本、『オデュッセイア』を理解するための解説書、物語そのものを味わう原典。それぞれ得られるものも、読みやすさも異なります。
この記事では、映画を観たあとにどの本を選べばよいか、初心者として読んだ感想をもとに紹介します。
※ホメロス『オデュッセイア』は、この記事を書いている時点で第4歌付近まで読んでいます。原典については、そこまでの感想として紹介します。
結論|目的によって選ぶ本が変わる
最初に結論をまとめると、3作品は次のように選ぶと分かりやすいです。
- ギリシア神話全体を広く知りたい人:『一冊でまるごとわかるギリシア神話』
- 映画の背景や原典の構成を知りたい人:『オデュッセイア』入門
- 物語を省略せず、自分で味わいたい人:『オデュッセイア(上・下)』
映画を観たあとに1冊だけ選ぶなら、私が最もすすめやすいのは『オデュッセイア』入門です。
一方、神々やほかの英雄にも関心を広げたいなら、ギリシア神話全体を扱う本が向いています。原典は物語の細部まで触れられますが、古い訳文や登場人物の多さから、人を選ぶと感じました。
1.『一冊でまるごとわかるギリシア神話』|神話全体を広く知りたい人向け
吉田敦彦さんの『一冊でまるごとわかるギリシア神話』は、ギリシア神話について簡単に知りたい人に向いた入門書です。
神々や英雄の物語が幅広く紹介されており、出来事だけでなく、古代ギリシアの人々の考え方にも軽く触れられています。物語の背景を理解しながら読み進められたことがよかったです。
特に印象に残ったのは、「なぜアポロンの恋愛には悲劇が多いのか」という疑問にも答えてくれたことでした。さまざまな神話を知るなかで、新しい疑問に出会い、その答えも得られる面白さがあります。
トロイア戦争を扱う分量は、読んだ印象では全体の1割ほどです。それでも、なぜ戦争が起きたのか、なぜアガメムノンが娘を生贄にしなければならなかったのかを知ることができました。
ただし、オデュッセウスについて詳しく知るための本ではありません。また、登場人物が多く、普段なじみのない名前を覚えるのには苦労しました。
映画の主人公を深掘りするよりも、映画を入口としてギリシア神話の世界を広く見てみたい人に向いています。私自身は、読後にオイディプスについても詳しく知りたくなりました。
詳しい感想は、『一冊でまるごとわかるギリシア神話』の書評にまとめています。
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2.『オデュッセイア』入門|映画と原典をつなぐ一冊
松村一男さんの『オデュッセイア』入門は、作品そのものを詳しく知りたい人に向いた本です。
オデュッセウスの知恵の由来から、トロイア戦争、帰還の旅、原典の構成、後世の作品への影響まで、『オデュッセイア』に焦点を絞って解説されています。
特に親切だと感じたのは、オデュッセウスの旅を、まず時系列に沿って説明してくれるところです。
原典では、息子テレマコスが父の消息を求める旅や、故郷イタケの様子、オデュッセウスの過去の冒険が、単純な時間順ではない形で描かれます。本書は先に出来事の流れを整理してくれるため、そのあとで原典の複雑な語り方を理解しやすくなっています。
また、映画では描かれなかった冒険があることや、原典では神々が思っていた以上に深く関わっていることも知りました。物語の対称性や構成の仕掛けまで解説されており、あらすじの確認だけで終わらないところも魅力です。
『オデュッセイア』のその後を語る別作品『テレゴノス物語』への言及も印象に残りました。具体的な展開は伏せますが、「その先に、そんな話があるのか」と驚かされました。
第6章以降は、ほかの叙事詩との共通点や、後世の文学・映像作品への影響へと話が広がります。映画をきっかけに原典へ進みたい人にとって、よい案内役になる本でした。
3.ホメロス『オデュッセイア(上・下)』|物語そのものを味わいたい人向け
3作品目は、ホメロス『オデュッセイア(上・下)』の呉茂一訳です。グーテンベルク21の電子書籍版を読んでいます。
現在は第4歌付近、テレマコスが父の消息を求めて旅をする部分まで読み進めました。
まず感じたのは、呉茂一訳の文章は、正直に言えば読みやすくはないということです。古い言い回しに加え、登場人物も多く、「〇〇の子である××」という形で名前が次々に出てきます。
入門書でも人物名の多さには苦労しましたが、原典ではそれ以上に「誰が誰だったか」が分からなくなる場面があります。すべての名前を覚えようとすると、読み進めるのが大変です。
一方、物語そのものを読むからこそ感じられる部分もありました。
映画では、オデュッセウスの帰還と並行して描かれていたテレマコスの物語が、原典ではしっかりと時間をかけて語られています。『オデュッセイア』が父の冒険だけではなく、息子が父を探す物語でもあることを、入門書の説明以上に実感できました。
また、メネラオスの屋敷の描写からは、彼の富や偉大さが伝わってきます。映像で豪華な屋敷を見るのとは違い、言葉を重ねた描写から人物の立場を想像するのは、読み物ならではの体験でした。
現時点では、原典は誰にでも気軽にすすめられる本ではないと感じています。古典らしい文章を読みたい人や、映画・入門書で知った物語を細部まで確かめたい人向けです。
先に『オデュッセイア』入門で人物や物語の流れを知っていたことは、原典を読み進める助けになっています。
おすすめの読む順番
私が今回読んだ順番は、次のとおりです。
- 『一冊でまるごとわかるギリシア神話』
- 『オデュッセイア』入門
- ホメロス『オデュッセイア(上・下)』
この順番には、広い地図を見てから目的地を詳しく調べ、最後に実際の物語を歩いていくような分かりやすさがあります。
ただし、映画の内容をすぐに詳しく知りたい場合は、『オデュッセイア』入門から始めてもよいと思います。そのあと、関心に応じてギリシア神話全体へ広げるか、原典へ進むかを選べます。
原典から読み始める方法もありますが、呉茂一訳は文章と人物名の両面で難しさがあります。古典に慣れていない人には、解説書を先に読む順番の方が取り組みやすいでしょう。
まとめ|最初の1冊なら『オデュッセイア』入門がおすすめ
映画『オデュッセイア』を観たあとに読む本は、何を知りたいかによって変わります。
ギリシア神話全体を知りたいなら、『一冊でまるごとわかるギリシア神話』。映画の背景や原典の構成を知りたいなら、『オデュッセイア』入門。物語そのものを細部まで味わいたいなら、ホメロスの原典です。
このなかで最初の1冊として最も選びやすいのは、『オデュッセイア』入門だと思います。映画と原典の間をつなぎ、物語の流れから構成上の面白さまで知ることができました。
原典は読みづらさがあり、人を選びます。
それでも、テレマコスの旅やメネラオスの屋敷の描写など、解説を読むだけでは得られない発見があります。


